SSH と 数学
この夏の思い出、数学の課題研究、または 方程式のガロア群

5次方程式
 年明け前後に彼らが得た結果は, x1 たちを5次方程式の根として,
\(p_1= {x_1}^2(x_2x_5+x_3x_4)+ {x_2}^2(x_1x_3+x_4x_5)\)
\(+{x_3}^2(x_1x_5+x_2x_4)+ {x_4}^2(x_1x_2+x_3x_5)+ {x_5}^2(x_1x_4+x_2x_3)\)
が, 彼らのいう C20 の元の作用で不変だということです。
C20 = F5 = < (1 2 3 4 5), (2 3 5 4) >
 正直驚きました。 5次方程式の群で可解となる最大の群や 基本的な群論の知識, 置換群による作用の様子,計算, そして,式を見る洞察力,と すでに私の予想を超えていました。 私はただ すごい発見じゃない とたたえるだけでした。 私は先述のように,体の自己同型としてガロア群をとらえていて, 学生時代にガロア群を求め方を考えたこともありましたが, それには方程式の根が必要でした。 彼らは,ガロアの主著を基本にして, 不変式を見つけたのです。
 その後,彼らは 参考文献 [D] の Dummit の定理を 誰からもヒントを与えられずに,独自に再発見するのです。 途方もない計算のすえに。
 彼らが独自に見つけたことは,定理と名乗ってよいこと, 可解判定規準 と名付けてよいこと,を助言しました。 そして,可解なものの具体例をあげよう といったら, \(x^5+15x+12=0\) を作ったのです。
 あと私がやったのは,ネットに載っている,可解な5次方程式の例を 彼らの判定規準に照らし合わせたり, 逆に彼らの作った例を Pari GP(私は,おそらく日本で早いうちに使い始めた ひとりです。1990年代ですから。)を用いて ガロア群を求めてみたりしました。 何とか根を求めてほしいなと言い続けました。

発表会
 4月に行われた校内の発表会では, 生徒はおろか,大人も彼らの発表に圧倒されました。 むしろ,生徒は彼らのすごさを分かっているので, 大変なことをやってのけたことを肌で感じていたかもしれません。
 高校生どうしで議論できない研究は, 課題研究向きではないのではという意見もありました。 ですが,彼らが疑問に思ったことを,考え抜いて答えを出したことは, 称賛に値しますし,それだけで, 研究をした意義があります。 特に数学は,なにものからも自由であるべきです。 役に立つとか,誰かのためになる研究ではないはずです。
 また,このような高度な研究には大学院生のような TA を つけるべきだという意見も同じ人からありました。 その意見を聞くと, 若手の数学者と対話する機会を設けてあげればよかったな とも思いますし, 私たち高校数学科教員のレベルを軽んじているとも取れます。 いずれにしても, 高校生は定理の再発見でもよいと考えています。 洗練された最先端の理論を学ぶよりも, 定理を発見する道のりを一歩一歩辿っていくほうが, 時間の使い方としてはいいようで, そこから理論化,問題解決法を身につけるようです。 なにより,自力で考え抜く姿勢をつけさせたいと思っています。 答えのあるものなら答えがネットに転がっています。 ただ,多くの人から正当な評価は早くから与えてあげればよかったと思います。 ですが,私は研究の方向性だけ指導したのですが, それは彼らのためになったと考えています。 大学の先生の研究指導に近いことをやらせていただき, 私自身も数学の知識や指導法など,たくさんのことを学びました。
 彼らの得たものは,
Dummit の定理を再発見したこと
ガロアが 180年ほど前に書いた論文を, 同世代の高校生がほぼ理解したこと
群論の基礎知識を身につけ,使い,計算することができること
自分で本を読み,推論できること
論理的に粘り強く考えることができること
これらは,数学だけでなく, 今後,問題に直面したときの解決する姿勢を身につけた と評価してよいと思います。
 マスフェスタに行った際,開会式で大手前高校の 校長が,高校生に学習指導要領を超えた学習をさせて, その発表会を催すことの大切さを述べられました。 全国から課題研究のネタとその成果を持ち寄る会は, 生徒にも私にもよい刺激になりました。 昨年は見学,今年は発表と行かせていただきましたが, 多くの方が指摘されているとおり, やはり生徒どうしの交流会があるともっとよいと感じました。
 彼らの発表は,ポスターセッションにおいても 生徒が訪れることはほとんどありませんでした。 しかし,分科会で指導助言をいただいた藤田岳彦先生をはじめ, 高校の先生方 ( 海城中学校 高等学校 数学科 数学科だより第7号 2014/9/10) からも大変高い評価を受けました。 閉会式でも,藤田先生から 学校名と簡単ではないのに 可解な5次方程式として \(x^5+15x+12=0\) を見つけたのには 驚いたと大変レベルの高い研究だという評価をいただきました。 彼らの今後の励みになったと感じています。
後日談 9月20日
 I高校文化祭を彼らとともに訪問した後, 気合い入れて5次方程式でも解いてみようかな と, まずはネットで下調べをしたら, ある学生の平成15年度学位論文(たぶん修士か)が見つかりました。 「可解な5次方程式について」と題されたその論文に, 私たちが解こうとしていた \(x^5+15x+12=0\) の解が載っていました。 どうも元ネタがあるようで, 参考文献に記した, Spearman, Williams の論文[SW]のようでした。 そして,[SW] の論文の参考文献に Dummitの [D] が載っていました。 [D] をみて驚きました。彼らの論文 [TII] と同じ定理が載っています。 明言しておきますが,生徒はその論文を知りませんでした。 独自に同じ定理に行きついたのは, 彼らの実力が投稿に値するものだということです。 Dummit は やはり \(x^5+15x+12=0\) という方程式を 一番最初の例として挙げています。 同じ6次分解式の一番簡単な例だからです。
参考文献
 彼らの論文のではなく, 私がこの文章を書く上で参考にした文献を挙げます。
[TII] 外山瑛章 石黒吉洋 石原充, 5次方程式の解法の考察 (2014)
[AG] N. H. アーベル E. ガロア, 群と代数方程式 (1831)
[I] 彌永昌吉, ガロアの時代 ガロアの数学 (2002)
[A] E. アルティン, ガロア理論入門 (1959)
[F] 藤崎源二郎, 体と galois 理論 (1977)
[T] 高木貞治, 代数学講義 (1930)
[D] D. S. Dummit, Solving solvable quintics (1991)
[SW] B. K. Spearman and K. S. Williams, Pure quintic fields defined by trinomials (2000)
[M] 元吉文男, 5次方程式の可解性高速判定法 (1996)
[Y] 結城浩,数学ガール ガロア理論 (2012)
つづく