パズルとコンピュータと数学

むすびに
 今日の話の結びとして、パズルとコンピュータと数学について、 いくつか私の思いを述べたいと思います。
 以上で 2x2 のルービックキューブは解けることになりますが、 実際には、たぶん簡単ではありません。 先ほども言いましたが、 答えをもっていてもそれは自分で解けるということと同じではありません。 スクランブルされた状態は一人ひとり違います。 空間を把握する能力が一番必要な力です。 解くためにはどのようにキューブを動かしたいかと考えることと、 少しコツを用いて、先ほどの知識に帰着させる道筋を考えることです。 中学生の数学も、高校生の数学も、何のために学ぶのだと言ったら、 数学的な知識を増やすことでも、問題が解けるようになることでも、 本来はありません。 考えることの練習をしているのです。 数学ができないと悩む人は、考えることの苦手な人です。 数学が嫌いだという人は、じっくり考えることの苦手な人です。 どうすれば、数学ができるようになるか。 まさに、王道はありません。 でも、考えることを練習すればできるようになります。 百歩譲って、高校や大学の受験のために数学ができるようになりたいと いう人がいたとして、 ではどうするかというと、 その問題が解けたということが大切なのではなくて、 似たような問題がそれによって解けるようになることが大切なのです。 だから、答えをもっているだけで、その問題の解法を理解しただけでは、 数学ができるようにはなりません。
 スクランブルされた状態が少し違っていても、 この知識を使って解けるようになるといいですね。 案外難しいですよ。
 そして、これで終わりではありません。 スクランブルされた状態を見て、 それがどのような操作の結果であるかを見抜けば、 それを逆に辿ると解けるのだという話をしました。 おそらく、時間を競う人は、 状態とそれを解く手をたくさん知っているのだと思います。 最近は、状態を入力すると解いてくれるサイトまで現われました。 コンピュータを使って、ルービックキューブの群を解析していけば、 もっとおもしろい結果が出るでしょう。
 コンピュータはとても便利なものです。 人間がすればゆっくりとしかも間違うような計算を、 高速に正確に行うことができます。 コンピュータ=計算するもの という名前は 正しいような気がしています。 世の中にはコンピュータがあふれていて、 存在があいまいになっている気がします。
 ちょっと前は(今も)マイコンと呼ばれていましたが、 炊飯器、洗濯機、エアコンなどの家電製品にもコンピュータがありますし、 車なんてコンピュータの塊です。 こちらは主に制御するためのコンピュータです。
 アップル社の製品で言えば、iPod も iPad も iPhone も Mac も全部コンピュータ。 iPod は音楽を聴くための道具で、 どちらかというとマイコンに近い。 iPod touch になると完全にコンピュータです。 iPad は画面の大きさの違いだけ、 iPhone は携帯電話会社の通信機能がある違いだけ。 これらは、汎用性があるコンピュータです。 Mac は誰もがコンピュータと認めるでしょう。 ですが、本来の計算機としてのコンピュータとして使っている人はどのくらいいるでしょうか。
 私は、計算は文字列の処理だと思っています。 普段の数学もそうです。 推論は、問題解決の手順を考えることです。 計算は誰がやっても(多少うまい下手はあっても)同じ答えが出てこなくてはいけません。
 ルービックキューブのパズルとしての魅力は、 誰でもできるけど、偶然性が乏しいことにあります。 だから、数学に乗りやすい。
 かずやかたち を研究することから数学が発達しましたが、 現代では、その研究手法が他の科学に応用されています。 最初の応用はもちろん物理をはじめとする自然科学です。 高校や大学受験の数学でもそうですが、 現象から方程式を立てて、それを解くというのが、 数学的な手法が問題解決に役に立ちます。
 数理科学という言葉もありますが、 現象をモデル化してシミュレートする、 これができるので、数学は世の中で役立っています。 また、人間社会と連携して、数学もまだまだ発展していきます。
 中学生が数学が得意になるためには、何が必要でしょうか。 受験にも通用しますが、 かずやかたち の感覚を高めることです。 それには、よい問題をたくさん解いて、 感覚を身につけるのです。
 高校生が数学が得意になるためには、何が必要でしょうか。 もちろん、中学生と同じように、 かずやかたち の感覚も大切ですが、 加えて、推論の能力を身につけてほしいところです。 皆さん中学生も16歳から18歳はそんな年頃だと心得ていてください。 やっぱり、中学校と高校とは求めるところが違います。

参考文献
群論の味わい David Joyner 著 川辺治之 訳 共立出版
ISBN978-4-320-01941-6