パズルとコンピュータと数学

はじめに
今日集まっている皆さんは、数学が得意な中学生でしょう。 あるいは数学が好きな人ではないでしょうか。 好きだけど得意ではないという人もいるでしょう。 得意だけど好きではないという人も、世の中にはいるでしょうけど、 ここにはいないのかなと思っています。
私たちが、中学生や高校生だったときと違って、 将来数学者になろうと思う人以外に、 世の中には数学が好きな人が増えたなと感じています。 皆さんはどうでしょうか。 数学者になりたいですか? 間違いなく、数学が好きじゃない人は数学者に なろうと思わないでしょう。 苦労の割に報われない職業のようです。 私たち、学校の教員もそうです。 数学が嫌いだったり、こどもが嫌いだったら、 やって行けません。
私は、教育学部ではなくて、 理工学部の数学科出身の教員です。 (高校ではめずらしくありません。) 私は、幸せだったことに大丈夫だったのですが、 大学の数学科の学生は、 高校までの数学と大学で学ぶ・研究する数学のギャップに 悩む人が多いようでした。 過去形なのは、 最近はそれが少ないようです。 多くの人はわかって、進学しているようです。
今日は、数学とは何かということと、 これから、どんなことに気を付けると、 もっと数学ができるようになるか、 充実した高校生活が送れるかという話をしたいと思います。 5年ほど前に、 県数学トップセミナーという会で、 ネイピア数の話をしたことがあります。 全県から100人以上の数学好きな高校生が集まって、 彼らを目の前にして話をするのは、 とても楽しかったことを覚えています。 すごく目が輝いていて、 同じ感覚をもっている人が聞き手でしたから。 今日もとても楽しみにしていました。

ルービックキューブの数理
皆さんは、ルービックキューブというパズルを知っていますか。 標準的なのは 3x3x3 なのですが、 今日は 2x2x2 について、数理を探ってみたいと思います。
私がちょうど皆さんと同じくらいの中学生だったとき、 今から30年ちょっと前に、 3x3x3 のルービックキューブが日本で 大ブームになりました。 まだ、街におもちゃ屋があった時代、 私も家の人にねだって買ってもらいました。 ただし、なかなか手に入らず、 いわゆる海賊版を、それでもようやく手に入れました。 箱の中には解法も入っていて、 私はそれを覚えたものです。 (今は肝心なところを忘れてしまいましたが、 ありがたいことにネットにはそこらじゅうに解法があります。) それでも6面をそろえられる人は少なく、 ちょっと得意になっていました。 実は、完全な一面を揃えることと、 状態を改善するためにどの手を使うかを見抜くことが難しくて、 手を覚えているかどうかは、大した問題ではないのです。 これは、数学の問題を解くコツとほとんど同じです。 たまに勘違いをしている生徒がいるのですが, 答えをもっていても,数学ができるようにはなりませんね。 ルービックキューブは、日本人のこころをつかんだのか、 その後もたびたびブームになりました。 高校の教員をやってからも、 生徒が、教室に持ってきて、 私が完成してあげたこともありました。 コーナーキューブだけみれば、 2x2x2 なので、 今日の研究はルービックキューブの最も 基本的なものです。
ごちゃごちゃになっている状態を、スクランブルされた状態ということにします。 それから、6面がそろっている状態に戻すことを ルービックキューブを解くということにします。 テキトーに操作しても元には戻りません。 操作した結果、どうなるのかを記録していきながら、 解決方法を考えなくてはいけません。 どうすればよいのか、 解決方法を一緒に考えていきましょう。 様子や操作をきちっと定義して、 操作による結果を考察していきます。
数理というのは最近私が好んで使う言葉です。 世の中にもちゃんとあって、 渋滞の数理なんていう言葉もあります。 正式な定義は知りませんが、 私は、物事を数学に乗せる、 物事を数学を使って分析する、 という意味に使っています。
では、数学って何ですかといわれたら、 私は、考えることすべてです、 と答えます。 多少、大風呂敷のような気もしますが、 それも意図したことです。 よく、2次方程式解けても役に立たないじゃないか、 などと、苦労の割に役に立たない勉強の代表のように 数学が叩かれた時代がありました。 皆さんの周りにもそんなこという大人はいませんか? その人が本気で言っているのなら、 信じないほうがいい。 20世紀の化石です。 2次方程式も役に立っているのですが、 それ以上に数学がほぼ人類の歴史と同じだけある理由は、 数学が考えることだからです。 ギリシャ時代は数学といえば幾何学でした。 中学校では2年生から本格的に幾何学を勉強します。 実は、中学校の図形の学習で大切なことは、 図形の知識を増やすことだけではありません。 問題の設定(仮定)とリクエスト(結論)を読み取って、 設定から要求まで、説明をつなげていく (論を推し進める,推論する)という、 私たちがおよそ考えるといったときに、 根幹となる作業を学習することにあります。 皆さんは、たぶん数学が好きだから大丈夫だと思いますが、 これから、数学が得意になっていくためには、 自分で考えるということが、大切になってきます。 中学校では優等生でも、 高校に入ってただの人になってしまう人は、 目先のテストの点数だけをとるような勉強をしている人です。 具体的にいうと、 穴埋めプリント学習、 わからないことを少しも自分で考えずにすぐに質問して答えをねだる、 計算は人任せにする、 答えがないと勉強できない、 というような方法が代表的です。 このような人は、 大学入試に合格できなくて、 初めて勉強の仕方が間違っていたことに気付くようです。 ざっくりいうと、自分一人で考えられない人は高校では伸びません。
数学は、知識や技能だけではないのです。 先ほど、ルービックキューブの手という話をしましたが、 手はもちろん知っていたほうがいい。 知識はあったほうがいいに決まっている。 でも、数学がなぜ世の中に必要なのかと言われれば、 知識をむしろ創ること、知識を裏付けることに、 数学が欠かせないからなのです。 簡単にネットで知識が手に入るようになった今、 知識をどうやって検索するかだけでなく、 知識はどうやって創るかということ、 数学の必要性がますます高まっています。 私が高校に進学したとき、 数学の先生方を訪ねたら、 その高校には私が入学する直前まで、 ルービックキューブの解法を、 自分で編み出した先生がいたという話を聞きました。 私は手を覚えただけなのですが、 それとは違う方法を自分で編み出した人がいる。 もっとも、私が覚えた手も、誰かが考えたものです。 自力で解法を編み出すのは、長年の夢でした。 今日は、ルービックキューブの「数学をして」、 私がつい先日自力で編み出した解法(2x2x2 だけですが)を紹介しながら、 どうやったら見つけることができるようになるかと話を進めていきます。

つづく