有理数

160502 初版 160521 更新
 集合 S, T をともに整数全体の集合とします。 S の要素 n に対して,T の要素 3n への 対応 f を考えます。 f は 3倍写像と呼んでもよいものです。 f は単射ですが,全射ではありません。 そこで,集合 S を拡張することにします。 T の要素 1 の逆像を a として,S の 要素に加えます。 S の要素を直線上に左から右へ小さい順に等間隔に並べることにします。 a は 0 と 1 を3等分した0 の右隣りの点です。 a を \(\dfrac{1}{3}\) と書くことにします。 S の要素を直線上に等間隔に並べた点のそれぞれの間を3等分した点を S に加えた集合を S3 と書くことにします。 0 の右隣りから順に \(\dfrac{1}{3}, \dfrac{2}{3}, \dfrac{3}{3}, \dfrac{4}{3},\)… と名付けます。\(\dfrac{k}{3}\) の右隣りは \(\dfrac{k+1}{3}\) です。 例えば,\(\dfrac{12}{3}=4\) です。 作り方から S は S3 の部分集合です。 S3 から T への写像は全単射になります。
S3 の要素には自然に加法,減法,整数倍の演算が定義できます。
例えば,\(\dfrac{4}{3}+\dfrac{5}{3}=3\), \(\dfrac{8}{3}-\dfrac{2}{3}=2\), \(\dfrac{2}{3}\times 5 =\dfrac{10}{3}\)
 集合 S, T をともに整数全体の集合とします。 S の要素 n に対して,T の要素 6n への 対応 g を考えます。 g は 6倍写像と呼んでもよいものです。 f は単射ですが,全射ではありません。 そこで,集合 S を拡張することにします。 T の要素 1 の逆像を b として,S の 要素に加えます。 S の要素を直線上に左から右へ小さい順に等間隔に並べることにします。 b は 0 と 1 を6等分した0 の右隣りの点です。 b を \(\dfrac{1}{6}\) と書くことにします。 S の要素を直線上に等間隔に並べた点のそれぞれの間を6等分した点を S に加えた集合を S6 と書くことにします。 0 の右隣りから順に \(\dfrac{1}{6}, \dfrac{2}{6}, \dfrac{3}{6}, \dfrac{4}{6},\)… と名付けます。\(\dfrac{k}{6}\) の右隣りは \(\dfrac{k+1}{6}\) です。 例えば,\(\dfrac{18}{6}=3\) です。 作り方から S は S6 の部分集合です。 また,\(\dfrac{2}{6}\) は \(\dfrac{1}{3}\) と同じものとみなします。 \(\dfrac{3}{6}\) は \(\dfrac{1}{2}\) と同じものとみなします。 S3 は S6 の部分集合です。 S6 から T への写像g は全単射になります。 S6 の要素には自然に加法,減法,整数倍の演算が定義できます。
例えば,\(\dfrac{7}{6}+\dfrac{5}{6}=2\), \(\dfrac{1}{6}+\dfrac{1}{3}=\dfrac{1}{2}\), \(\dfrac{5}{6}\times 3 =\dfrac{5}{2}\)
S6 の要素の中には Sが含まれていますので, 例えば \(\dfrac{17}{6}\) は2つの隣り合う整数の間にあります。 \(\dfrac{17}{6}=2+\dfrac{5}{6}\) と書くことができますが, このような表示は,有理数の帯分数表示と呼ばれています。
 整数に 整数の集合へのすべての q倍写像の逆像を添加した集合を 有理数(rational number) と呼んでいます。 有理数の要素は 2つの整数の組m, n で \(\dfrac{m}{n}\) と表すことができます。 ただし,\(\dfrac{mk}{nk}\) と \(\dfrac{m}{n}\) は同じものとみなします。 m, n の最大公約数を g として,m = gm', n = gn' とします。 \(\dfrac{m}{n}\) と \(\dfrac{m^\prime}{n^\prime}\) は同じものです。 \(\dfrac{m^\prime}{n^\prime}\) を既約分数 と呼んでいます。
 定義から,分母が同じであれば,例えば, \(\dfrac{5}{4}\lt\dfrac{11}{4}\) がいえます。 分母の異なる,例えば, \(\dfrac{11}{4}\), \(\dfrac{8}{3}\) はどちらが大きいでしょうか。 \(\dfrac{11}{4}=\dfrac{33}{12}\), \(\dfrac{8}{3}=\dfrac{32}{12}\) ですから, \(\dfrac{11}{4}\gt\dfrac{8}{3}\). 分母の異なる場合は,分母を同じ数でみる 通分 と呼ばれる作業で比べればよいことになります。
 このように任意の2つの有理数には大小関係(等しいことを含めて)があります。 有理数は,分母は異なる数をとりながら無限個ありますが, 小さい数から大きな数へ 一列(リニア linear)に並べることができます。
 \(\dfrac{1}{4}+\dfrac{1}{6}\) のように 分母の異なる有理数の加減は, 分母を同じ数にそろえると計算することができます。
 定義より\(\dfrac{1}{3}\times 3=3\times\dfrac{1}{3}=1\). したがって,例えば,\(\dfrac{2}{3}\times\dfrac{3}{2}=1\) が成り立ちます。 \(\dfrac{2}{3}\) と \(\dfrac{3}{2}\) は互いに逆数であるといいます。
 方程式 \(\dfrac{2}{3}x =5\) を満たす x を求める計算式を \(5\div\dfrac{2}{3}\) と書くことにします。 \(\dfrac{2}{3}x\times \dfrac{3}{2}=x\) ですから, \(5\div\dfrac{2}{3}\) は \(5\times\dfrac{3}{2}\) のことだ とするのが妥当です。