整数

160502 初版 160516 更新
 数学の世界は高度に抽象化されています。 その世界をのぞいた人がそれぞれのイメージを持ちます。 そのイメージが当初の人が定義したことよりも広がり, 当初の人が見ていたものと違う現象に適用されて, 数学が世の中の現象の解析に役立っています。
 ここでは,数学の世界を私がもっているイメージで記述していきます。 具体的にはこんなイメージを描いているということを, 例をたくさん挙げて記述していきます。 必ずしも順序だてて説明があるわけではありません。 必ずしもちゃんとした証明があるわけではありません。 もっと知りたいな,詳しく知りたいな, と思ったら,他の人のイメージを探すとよいでしょう。 この文章は数学の世界への扉だと思っています。 読み手の方は自分のイメージを作っていってください。 イメージを作るには, 具体例を作ったり,計算してみたり,図をかいたりするのがよいでしょう。 この文章にはあまり問題はありません。 自分の力で問題に挑むと自分なりの数学の世界ができてきます。
 1, 2, 3, …
1から始めて1ずつ増やして得られる数の列 (数列) に属する数を 自然数 といいます。 自然数には,自然に順序があります。 (0 を自然数に含めるかどうかは議論の分かれるところです。 ここでは,最小の自然数は 1 ということにします。) 数学の言葉(素朴集合論)で 集合(set) とは, その集まりを構成するか否か判定できる集まりのことです。 例えば,10に近い数の集まりは所属するかどうか境界が明らかでないので, 集合であるとはいえません。 集合を構成するもののことを集合の 要素(element) あるいは 元 といいます。 自然数か否かは判定ができるので,自然数の集まりは集合です。 A を自然数全体の集合とするとき,1 は A の要素です(定義)。 n を A の要素とするとき(要素と仮定するといいます), n + 1 は A の要素である という規則で自然数は構成されています。 (Peano もう少し細かい条件が必要です。) (参考 数学的帰納法(induction)の原理) A は無限集合です。すなわち,自然数は無限個あります。 実際,N を A の要素のうち最大の数と仮定しても, N + 1 は自然数の構成規則から A の要素になるので, N が最大の数であることに反します。(このような証明方法を背理法といいます。) したがって,自然数は無限個あることが説明できます。 自然数は個数,順序を表すために使われます。
 数と数表現は異なります。 数は文字や言語がなくても存在しているものです。 私たちは 10進法 10進法を使っていますので, 9より1大きい数は10 と表します。 英語では nine, ten, eleven, twelve, のように数を呼びます。
日本語の きゅう,じゅう,じゅういち,じゅうに,
漢数字の 九,十,十一,十二,
アラビア数字での 9, 10, 11, 12 のようにはなりません。 もっとも日本語や漢数字での表記も完全な10進法表記ではありません。 例えば, 123 は,ひゃくにじゅうさん 12345 は,いちまんにせんさんびゃくよんじゅうご と読みます。 数表現については, 別に説明しようと思っています。
 自然数を小さい順に左から右へ並べた数列を考えます。 ある数を m, その右隣の数を n とすると,自然数の公理により, m + 1 = n が成り立ちます。 1 + 1 = 2 は,1 および 1 を加える,2 の定義ということになります。 8 + 1 + 1 + 1 これを 8 + 3 と書くことにします。 一般に a + b と b + a は等しくなります。 また,(a + b) + c と a + (b + c) は等しいので, a + b + c と書くことにします。 この2つの規則(交換法則,結合法則)によって, 自然数の加法は,順序によりません。 自然数の加法には,継足しと寄せる という2つの意味があります。
この m, n に対して,n - 1 = m と 1を引く ことを定義します。 7 - 1 - 1 - 1 を 7 - 3 と書くことにします。
1 - 1 を 0 と定義します。一般に a - a = 0. 0 - 1 を -1 と定義します。 これによって,自然に自然数の列は左側にも拡張されます。 この数全体を 整数 といいます。
0 よりも右側,すなわち 0 よりも大きい数を 正の数 といいます。 0 よりも左側,すなわち 0 よりも小さい数を 負の数 といいます。 0 は正の数でも負の数でもありません。
a - b = a + (-b) = (-b) + a = (-b) - (-a) = -(b - a) が成り立ちます。
整数の減法には,比べた差と残った余り という2つの意味があります。 整数の加法は,順序に依りません。 a - b と b - a は値が異なりますが(ちょうど正負は反対), a - b - c と a - c - b は等しくなります。