SSH と 数学
この夏の思い出,数学の課題研究,または 方程式のガロア群

4次方程式
 多少時間的に前後するのですが, 2014年のセンター試験の話題です。数学I・Aの第1問
 みなさんはこの問題をどうとらえたでしょうか。 サ~ソ に入れさせるための変形は,TDN (ただの) 消去です。 彼らと関わっていた私には サ~ソ は a についての4次方程式に見えました。 a, b の満たすべき 4次方程式を導いている問題なのです。 TDN計算ではなく,背景,ストーリーがあるようです。 当時3年の担任であった私は当然この問題をみたわけですが, 課題研究をしている彼らに,a, b はこの4次方程式の根ということだろう, と問題の見方を紹介して じゃあガロア群は何? と 問いかけました。 クラインの四元群じゃないでしょうか と答えてきました。 1月時点で彼らの学習・研究はそこまで辿り着いていました。 彼らは,それが気に入ったのか, 4月の校内発表会でも,8月のマスフェスタでも この問題について一言触れていました。
 この4次方程式 \(x^4+4x^3-16x^2+8x+4=0\) を 「ガロアの方法」によって解いてみます。
ガロアは主著によって,4次方程式が解ける理由を述べています。 それを彌永先生が具体的に解説しています。 高木先生も代数学講義で次の解法を紹介していますし, 私の師匠も例のプリントで「新解法」としています。
4次方程式の根を x1, x2, x3, x4 として, y1, y2, y3 を,
\(y_1=x_1x_2+x_3x_4\),  \(y_2=x_1x_3+x_2x_4\),  \(y_3=x_1x_4+x_2x_3\)
とおきます。
yi それぞれは クラインの四元群 V = {id, (1 2)(3 4), (1 3)(2 4), (1 4)(2 3)} で不変なことに 注意してください。 でも,例えば y1 は (2 3) によって, y2 に移りますから,S4 では不変ではありません。 寺田先生の群論の講義で, 受け身でぼんやりしていたときに あてられて戸惑ったことがあります。 抽象的なことは手を動かして計算してみて 身に付きます。 手を動かしてみなければ理解できないということを 実感しました。 彼らもよく分かったことですし, 今2年生にベクトルの授業をやっているところですが, まずは計算だといっています。 「何はなくとも計算力」 というのを 標語のようにつぶやき続けていますが, 手を動かす,計算するということは, 数学が分かるようになる初めの一歩のようです。
\(x_1+x_2+x_3+x_4=a_1\),   \(x_1x_2+x_1x_3+x_1x_4+x_2x_3+x_2x_4+x_3x_4=a_2\),   \(x_1x_2x_3+x_1x_2x_4+x_1x_3x_4+x_2x_3x_4=a_3\),   \(x_1x_2x_3x_4=a_4\)
とおきます。根と係数の関係から x1 たちは
4次方程式 \(x^4-a_1x^3+a_2x^2-a_3x+a_4=0\) の根になります。
\(b_1=y_1+y_2+y_3\),   \(b_2=y_1y_2+y_2y_3+y_3y_1\),   \(b_3=y_1y_2y_3\) を考えます。
b1 たちはそれぞれ展開すると xi の S4 の作用で不変になります。 つまり,基本対称式 a1 たちで 書くことができます。
実際, \(b_1=a_2\),   \(b_2=a_1a_3-4a_4\),   \(b_3={a_3}^2+{a_1}^2a_4-4a_2a_4\)
彌永先生の本に答えが書いてありますが, 実際に手を動かしてみたいところです。 置換,対称の様子がよくわかります。 ほんと,学生時代にあまり手を動かさなかったのを 後悔しています。 というか,確かに,手を動かしたことしか身についていません。 彼らは,5次方程式でこれに相当する対称式の計算をやったのです。 コンピュータの力は借りたようですが。 私も検算するために,自分でプログラムを組んで 対称式の計算をほんの少しやりました。 4次では手計算でもできますが, 5次でやるとあまりに膨大で時間がない (Je n'ai pas le temps. ちゃんと私の師匠はガロア理論の講義でつぶやいてくれました。 日本語でしたけど。) ため ほんの少しの項しかできませんでしたが, それでも彼らのタイプミスを見つけました。
 さて,私たちの方程式は, \((a_1,a_2,a_3,a_4)=(-4,-16,-8,4)\) でしたから,
\((b_1,b_2,b_3)=(-16,16,16\cdot 24)\)
すなわち, y1 たちは, \(y^3+16y^2+16y-16\cdot 24=0\) の根になります。
これは, 4, -8, -12 という有理数(!)の根をもちます。
このことは,この方程式のガロア群がクラインの四元群だと いうことを物語っています。
\(x_1x_2+x_3x_4=4\),   \(x_1x_2x_3x_4=4\)
この2つより \(x_1x_2=2\) … ①
\(x_1+x_2+x_3+x_4=-4\),   \((x_1+x_2)(x_3+x_4)=a_2-y_1=-20\)
この2つより \(x_1+x_2=-2+2\sqrt{6}\) … ②
① ② より \(x_1=(-1+\sqrt{6})+\sqrt{5-2\sqrt{6}}=-1+\sqrt{6}+\sqrt{3}-\sqrt{2}\)

つづく