SSH と 数学
この夏の思い出,数学の課題研究,または 方程式のガロア群

5次方程式の解法の考察
 数学の課題研究のテーマを決める際に, をして彼らが選んだのが,高次方程式でした。
 多少数学に興味のある生徒ならガロアのことを知っています。 先日結城浩さんの話を聞く機会がありましたね。 (私の感想はこちら) 私も同感で,ガロアの理論を高校生にも知ってもらいたかった。 むしろ,大学生になってから洗練された理論を学ぶより, 課題研究なら泥臭い計算をさせたかった。 高木貞治先生は,代数学講義の中(p.206)でこんなことをおっしゃっています。 少し長いですが引用します。
 上記は Abel の原証明に些細の変改を加えたものである。 有理区域の思想はこの証明法を発端として生育されたものである。
 現今流布本においては Abel の証明はほとんど後を絶とうとしている。 五次以上の一般的方程式が冪根によって解かれないことを, 現今の体の論では,一層広汎な定理の特別な場合として, きわめて手軽に出してしまう。 飛行機から登山の路を見させるようなものである。 ここでは大掛りの準備をしないで, 最初の踏破者の足跡を追って見たのである。 それは無用ではあるまいと思われる。
 後でも書きますが,私の師匠から教えをいただいた最大のことは この点で,私も彼らにそういう体験をさせたかったのです。 若干後付けになるのですが, 問題解決の方法を見つけるまたその方法を学ぶという点で,この高木先生の言葉は 私たちに大きなヒントを授けているように見えます。
 5次方程式に解の公式がないのは,有名な話ですが, 5次方程式にも開法で解けるものがあるのは, 論理が未熟な高校生にはあまり知られていません。 例えば,\(x^5-2=0\) です。
根は \(\zeta=\cos\dfrac{2\pi}{5}+i\sin\dfrac{2\pi}{5}\) \(=\dfrac{-1+\sqrt{5}}{4}+i\dfrac{\sqrt{10+2\sqrt{5}}}{4}\) として,
\(\sqrt[5]{2}(=\alpha)\), \(\alpha\zeta\), \(\alpha\zeta^2\), \(\alpha\zeta^3\), \(\alpha\zeta^4\)
ちなみに, この方程式のガロア群は 位数20 のフロベニウス群といわれるものです。
 現勤務校でもいろいろと考えさせられることがありました。 今思うと T高校での勤務が一番楽しかったような気がします。 数学に対して,とても無邪気に授業することができたし, それが,生徒にも共感が得られたし,受験学力としても悪くはありませんでした。
 2012年夏にインターハイの準備の合間をぬって, 理数科東京研修の引率に行きました。 時間を作って母校を訪れ,師匠にあってきました。 そこで,自分の立ち位置を確認した気がします。 08年に K高校がSSH指定校になった際にも, その師匠の兄弟弟子(といっても,私より遥かに数学ができるのですが)の T氏に来てもらったこともあります。
 その T氏の結婚式が 13年にあり,再び師匠とゆっくり話を することがありました。 その際に,代数方程式の話題 というプリントをもらいました。 大学の講義のネタらしいです。 高校生にもどうかということで,いただきました。
 数学の教科書は,定義 例 定理 証明 例 練習 のように構成されています。 これは,大学の教科書になると一段と顕著ですよね。 理論を短時間で学ぶにはよいのかもしれませんが, 研究をするにはこの方法はよくないのではと思っています。  学部3年で研究室を訪ねた際, 代数幾何を学ぶときにと勧められたのが 数学セミナーの「デカルトの精神と代数幾何」でした。 それだけでなく, 古典の中,理論を作っていく過程の中, 具体的な計算の中に研究材料があるということは, 師匠から徹底的に教わったことでした。
 彼らの数学の実力は高校入学時から知っていましたから, 彼らがこのテーマを選んだ時に, まず,私は師匠からもらったプリントをコピーして, 3次方程式,4次方程式の解法を研究せよといいました。 また,ガロア理論を学びたいというのが, 彼らの裏の目標でしたから, まずは,彌永先生の「ガロアの時代 ガロアの数学」で 原論文を読んでみなさい,と指示しました。 私もあるとき共立出版「現代数学の系譜」の アーベル,ガロアの原論文の日本語訳を古本屋で購入しましたが, 彌永先生の本は解説が丁寧です。
可解な5次方程式の例を2,3作ってみよう
具体的な3次,4次方程式を解けるようになろう
ガロアの原論文を読んでみよう
この3点が私から彼らへ最初に出した課題と指示です。 また,本を買うことにお金をケチらない彼らでしたので, 夏から始めて年が変わるころには, 彼らなりに方程式のガロア理論は理解したようでした。
 私は大学時代は講義のほかに, 岩波基礎数学 藤崎先生の「体と galois 理論」で学びました。 今は,書店をのぞくとガロア理論の解説本はいろいろありますね。 昔はどうだったのか。 いま,生徒たちには本にはお金を使うようにと言っていますが, 私自身は全然使わないほうでした。大きな後悔のうちの一つです。
 その中で彼らと私が選んだのが, 雪江先生の「代数学 1 2 3」でした。 みなさんが感じていることだと思うのですが, 数学は大変抽象化されているので, 例えば,三角関数といっても, その具体的なイメージは,それぞれの人の頭の中にあって, 微妙に違うものなのではないでしょうか。 それが,また数学の面白いところですね。 昨今,自習を出さないということで, 代講が奨励されていますが, 生徒は結構混乱しますよね。 教える側の私たちも,口調だけでなく, 教材のイメージが人によって違うと思います。 だから,アルティンの「ガロア理論入門」も紹介しました。 寺田先生の訳には,練習問題がたくさんついています。 これによって,ガロア理論が分かったつもりになります。 これも生徒は買ったようですが, 驚いたことに英語版を購入しました。 練習問題は,寺田先生が教育的配慮でつけたものですから, 英語版にはないのかもしれません。
 ガロアは群論を作った一人ですから, 整備された群論は知らない。まして,体論も作った一人ですから, あとで体論を主にして書かれたアルティンの本とは ガロアの論文は形式が異なる。 私もアルティンの流れを組む方法で勉強したので, ガロアのガロア群の定義には面くらいましたが, 方程式のガロア理論を理解するなら, ガロアの定義のほうが絶対にいい。 今は, ガロアが読んだラグランジュの論文を読んでみたいなと思っています。 ガロアはその論文を読んで彼の方程式論を構築したのに違いないからです。
 ちょっと前から, 授業も定義 例 性質 公式 例題 練習の教科書スタイルが 何とかならないものかと思っています。 日本も先進国病になっていて, 目標を失っている感じがしています。 あるいは,模範から学ぶという学習スタイルだけでは, 今後世の中を作っていく彼ら高校生が, 問題に直面した際に解決できないのではないかと思っているのです。
 残念なことに,単に点数だけをとればいいという考えとは矛盾しています。 例えば,医学科志望者からのニーズとずれているのです。 しかし,問題解決法は理論化の過程にあるのだ という考えが, 徐々に私の中で確信に満ちたものになっています。 かなり力のある生徒にこの体験をさせることは, 教育的に意味のあるものだと思っています。

つづく