SSH と 数学
この夏の思い出,数学の課題研究,または 方程式のガロア群

ガロア群
 いよいよ,彼らの理論と私の関わりを記していきたいと思います。
 まず,彌永先生の本 [I] によって,ガロアが原論文で定義している ガロア群の説明を引用します。 命題 I の定理として述べられていることです。
 a, b, c, … を m 個の根としてもつ方程式が与えられたとしよう。 そのときいつも次の性質1°, 2° をもつ a, b, c, … の置換からなる群がある。 (それを方程式の群と呼ぶことにする。)
1° 根の関数でこの群の置換によって変わらないものは, 必ず有理的に知られる。
2° 逆に有理的に決定される根の関数は, この群の置換によって変わらない。
 この頃は高校生にもわかるガロア理論のような本が各種あるようですが, ガロアがこの理論にたどり着いたのは, 日本でいう高校を卒業するかというくらいの年齢ですよね。 ガロアは天才だとしても, 莫大な代数学の理論,知識がバックボーンにあったわけではないのかもしれません。 むしろ天才ゆえに,何度も強調したいことですが, 問題解決のために,ガロアは群論を作り,体論を創始したのだと思います。 ジョルダンが1870年に記した「置換論」がガロアの論文の注釈に過ぎないと 自身が語ったというのは興味をひく逸話です。 アルティンによる定義を寺田文行先生の訳本から引きます。
 Kを体とし f(x) を K 内の多項式で重根をもたないとし, E を f(x) の分解体,さらに
f(x) = (x-α1)(x-α2)…(x-αn)
を f(x) の E内での分解とする。 すると α1, α2, … αn は E の生成要素である。 K 上の E の自己同型群を G とすると,すでに注意したように, Gの要素 σ は それが α1, α2, … αn にどう作用するかで完全に定まる。 ところが σ は α1, α2, … αn をそのならべかえに写像するので, G は n 個の要素の集合の1つの置換群と考えてよい。 簡単のために,G は αi の添数 i の置換群と考え, 文字 1, 2, … をならべかえるものとしてよい。 群 G を f(x) の K 上のガロア群とよぶ。
と書いてあります。 私は,群,環,体と抽象代数を学んで, ある種その応用としてこのような定義でガロア理論を学びましたから, ガロアの定義,そして 彼らが論文 [TII] の中で予備知識として 挙げている定義には正直 えっ と思いました。 逆なんですけどね。 もっとも,大学の代数学は, ガロア理論を学ぶだけの講義ではないので, このアルティンの流れは意味深いものだと感じます。 雪江明彦先生の本をはじめ,中村亨先生のブルーバックスでも ガロアの原著に近い定義しているようです。 [TII] から引用します。
7.10 方程式のガロア群
例として,既約 3 次方程式について考える。
ax3 + bx2 + cx + d = 0 の解を α1, α2, α3 とすると,これらは無理数である。
\(\mathbb{Q}\) にこの 3 解を添加した体を L = \(\mathbb{Q}\)(α1, α2, α3) とすると,次の性質を満たす, α1, α2, α3 の置換によって 生じる群がある。
(i)L に属する α1, α2, α3 の多項式で,この群の置換で不変 なものは必ず有理数となる。
(ii)有理数で表される α1, α2, α3 の多項式は必ずこの群の置換で不変である。
この群のことを ax3 + bx2 + cx + d = 0 のガロア群といい, Gal(L/\(\mathbb{Q}\))と書く。 既約 3 次方程式のガロア群は α1, α2, α3 を固定してはならない。 また,一般に既約 n 次方程式の ガロア群は,推移群(解を固定しない群)でなくてはならない。
3次方程式
3次方程式 \(x^3-3x-8=0\) を 解いてみましょう。
\(x^3+y^3+z^3-3xyz=(x+y+z)(x^2+y^2+z^2-xy-yz-zx)\)
という有名な因数分解を使います。 足立恒雄先生の講義で, この因数分解の背景を知りました。
\(y^3+z^3=-8\), \(yz=1\) とすれば,
\(x^3-3x-8=(x+y+z)(x^2+y^2+z^2-xy-yz-zx)\) より,
\(-y-z\) は この方程式の1つの根です。
\(y^3\), \(z^3\) は \(y^3+z^3=-8\), \(y^3z^3=1\) より,
\(t^2+8t+1=0\) の根ですから \(-4+\sqrt{15}\), \(-4-\sqrt{15}\) です。
-y, -z を改めて y, z と書き直します。
y, z としては,1の3乗根の虚数のものを ω とかいて,
\(y_1=\sqrt[3]{4+\sqrt{15}}\), \(z_1=\sqrt[3]{4-\sqrt{15}}\) と あと2つずつ \(y_1\omega\), \(y_1\omega^2\),\(z_1\omega\), \(z_1\omega^2\) がありますが,
\(yz=1\) により,もとの3次方程式の根は,
\(y_1+z_1\), \(y_1\omega+z_1\omega^2\), \(y_1\omega^2+z_1\omega\) の3つになります。
\(x^3+y^3+z^3-3xyz=(x+y+z)(x+y\omega+z\omega^2)(x+y\omega^2+z\omega)\)
という因数分解は3次方程式の解法を端的に表しています。
 指数・対数・三角関数に比べれば,工学の応用としては 大変地味な 代数方程式 ですが, ここから深遠な理論が始まると思うと 高校生に紹介しないのはとてももったいない話です。

つづく