試行問題の分析 180830

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180830 初版 180927 更新   A4 1ページ程度のサマリー

どのような力の育成が必要か?

 まずは,何はなくとも読解力。 問題の意味することを読み取る力です。 もう少し細かく言うと,問題の設定は何か, 問題の要求は何かが正しく読み取ることは, ほんと初めの一歩ですが,重要な一歩です。
 二つめは,知識・技能を活用する力です。 問題の設定を読み取って,要求に応えるには, 知識との結びつきを考え, そして正確に処理できる。 このような力が必要です。
 三つめは,表現力です。 数学の用語や数式の表すものを正確に理解して, 事象を言葉や数式を用いて, 正しいロジックで表現する力です。 記述式の解答はどのように作ればよいのでしょうか。 途中式をしっかりと書けば得点できるのでしょうか。 少し疑問に思っています。

どのような授業をするとよいのか?

 極論をいうと,狭い意味での知識・技能の習得に時間をかけない授業をしたいと思っています。 必要ないとは言いませんが,それで十分ではないはずです。 知識が成り立ち,なぜその問題解決に必要なのかには 時間をかけたいと思います。 知識・技能を活用させながら,習得出来たらいいなと思っています。 数学的活動という言葉はずっとよく使われています。 探究型学習という言葉もそうです。 試行問題を見たとき,最初 GRAPESCinderella, GC などが思い浮かびましたが, どうやら GeoGebra がモデルになっているようです。 このようなアプリケーションを使って, 生徒に体験させながら知識や技能に近づいていく授業が求められている気がします。 その昔,インタラクティブな数学 というようなことを 高教研の研究集録に書いたことがありますが, また,その頃の心構えをもつようにしようと思います。
 用語の意味を問うたり, 自分の考えをしっかりと相手に伝える, 相手の問いに正確に答える, 対話的な授業も目指していきたいと思います。
 読解力の涵養には,教科の枠を超えた指導が必要になってきます。 ある仮説を立てて,生徒に対して定期的に指導しています。 ほんの3か月程度ですが,成果が出てきているのではないかと学年団は 評価しています。
 いろいろなところで話をしていますが, 今年度からの2年間, 国立教育政策研究所教育課程研究指定校事業(高等学校数学) に取り組んでいます。
研究課題は
思考力,判断力,表現力等を育む深い学びを実現するための教材開発と指導・評価方法 の研究
です。もう少し詳しい内容は
生徒が問題に取り組む際に,試行錯誤などをしながら問題の本質やいろいろな性質を自ら発見・定式化できる探究的な単元導入教材の開発を行っています。また,生徒どうしの対話を促し,知識や技能を活用する力,思考過程を表現する力を育成する授業方法を研究しています。

どのような問題であれば,より力を測りやすくなるのか?

 少し質問の意図が不明瞭ですが,二つ考えてみました。
 一つは,普段どのような問題に取り組めば試行問題のような問題が解決できるようになるかということ。
 二つは,数学の力を測るにはどのような問題がよいのかということ。
 一つめについては,知識・技能の活用方法を考えさせる問題に取り組めばよいのではないかと思っています。
 二つめについては,この試行問題のような問題で十分ではないかと思っています。 昨年の12月ごろ,試行問題が公開された直後は, そうはいっても,共通テストはこのようなものばかりにならないのではないか。 このような疑問があったようです。 でも,従来,いわゆる2次力のある生徒を育てていたでしょうか?

そもそもなぜ入試改革か?

 キーワードの一つは 少子化 があると思います。 大切な後期中等教育が,大学入試にパスするための勉強をするだけでよいのでしょうか? 人生をよりよく生きるためには,何が問題で,それをどうやったら解決できるのか。 見きわめ,解決しようとする姿勢が大切だと思います。 どんな問題でも解いてやろう。 先日の数学教育を語る会で大御大がおっしゃられた言葉が耳に焼き付いています。 高校時代に一つのことについてとことんまで探究した経験は, その後の人生で大変に役に立つはずです。 ここ20年くらいの教育は,浅くてもいいから, 広くたくさん知識や技能,解決策を習得することに重きを置いていた気がします。 勉強することと暗記することを同じ意味にとらえていた教育だったのではないでしょうか。 数学は考える姿勢を学ぶ教科だと思います。 今まではどちらかというとマニュアル参照型だったのではないでしょうか。
 もう一つのキーワードは国際化ではないでしょうか。 従来の教育のおかげで日本の国力は高まったのは間違いのないことだと思いますが, ある種の先進国病,目標を失っている今は, もう一度書きますが, 大切な10代後半の若者に,受験にパスすることを目的とした 教育だけでいいのかという問いに対する答えを模索しているのだと思います。 世界の数学教育を見た場合に, これでいいのかという疑問です。 よしあし込めてガラパゴス的数学教育になっている気がします。
 このような教育の問題解決を図り, 現場の改善を促すために, 今回の試行問題が作られたのではないかと 私は勘ぐっています。

記述式の答案

 夏休みに本を読んだり,blogを読んだりしていたら, とても違和感のあるものにたくさん出会いました。 それは,ロジックの間違いです。 気になったのは,
示したい命題の裏が真であることをいって, さも正しいと平気で論じているもの
が,堂々と活字になっていたり,ネットにのっていたりしていることです。
そのものを引用するのは差し控えますが,例えば,
これがないと危険です。 「言い換えると」,これがあると安心です。
という類です。
日本語の欠点なのかなと思いますが, こういったロジックの誤りが,思うより蔓延してきている気がします。 このようなものは記述式の答案作成を鍛えることで排除できるような気がしています。 「共通一次」の最初の受験者はまもなく還暦を迎えようとしています。 そういう意味でも2021年度入試は大きな改革になるのでしょう。